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父の日に捧ぐ

「ロシアじゃ黄色い酒があってな!
森の木を伐採した報酬で金をもらってそれを買うんだ。
春先のサハリンはフレップの実が生って
甘酸っぱくて、よく食ったもんだ。」

小学校低学年の私に親父は何回も
同じ話をしたっけ。

長い間捕虜として抑留され否応なしの重労働、
安い賃金でこきつかわれ、何人も戦友をロシアの大地に
残してきたとうつむきかげんで呟いていた。

二年くらい前NHKのある番組でシベリア鉄道を
取り上げた番組を放映していた。

そうか、これに乗って親父は日本に帰ってきたんだ!
駅近くの市場でテレビカメラは大きな篭に収穫した
あふれんばかりのたくさんの赤い実を映し出した。
テロップにはフレップ(コケモモ)と表示されていた。

これがフレップか!日本ではあまり見たことのない実だなあ.....。

そして呑んでいた酒の手も止まり、テレビに釘付けになる私の目の前で
見たものは仕事が終わり、一家団欒で酒を呑む風景。

そのテーブルにあるのはレモンをラベルにデザインしたウォッカだった。
さほど気にも留めなかったが一人一人それをグラスに注いでいる場面で
はっ、と思った。   

「黄色い酒だ!」

親父の言っていた酒ってこれだろ?
つらく苦しい抑留生活の中で唯一自分を慰めてくれたのはこれだろ?

商品名を確認すると今は日本でも入手可能とわかり、
早速手配すると手元に届くにはそう時間はかからなかった。

目の前のそれはまるで20代後半から30代前半の
私の知りえない親父の当時を垣間見るような気がした。

グラスに注いで色を確かめ、一口含むと
強い酒精と共に、父親としてではなく
一人の男としての人生に悲哀を感じた。


父さん!あなたの儚い人生59年間はどうだったの?
幸せだったの?悔いているの?満足したの?

静まり返った暗い夜のしじまの中で呟いてみたが
誰も何も答えてくれない。

そしてグラスの中の黄色い酒はカリッと乾いた音を立てて
氷を溶かしただけだった.....。
父の日に捧ぐ_f0173549_1381835.jpg

by mannmani | 2009-06-21 01:40 | 心象風景

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by まんまに
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