横断歩道にて

薄曇りの空の下、今は昼下がり、
その日私は小学生の下校時近くに
横断歩道に立っていた。

すると学校とは逆方向から小さな柴犬を連れた
女性がこちらに向かって歩いて来る。
彼女と柴犬は横断歩道を渡り終わり
私の横を通り過ぎていこうとしたその時、

ポトッ!小さな落下音と共に植え込みのツツジの葉から
一匹のヤモリが柴犬の頭上に落ちて来た。

ふいの出来事に驚いた犬は慌てて首を振り、
ヤモリを地面に落とした。
だが必死にその場から逃げようとする彼に柴犬は容赦しなかった。
前足で尻尾を押さえて動きを止め、口に入れようとする。

トカゲの尻尾切りとはよく言ったものだ。
あっという間に本体から切り離された尻尾は
アスファルトの地面を、のたうち回っていた。

筋書き通りであるならばこのままヤモリは無事に
逃げ仰せたのだろうがところが運悪く柴犬は
切り離された尻尾に気がつかなかったのだ。

そしてふたたび口を近づけて食べようと歯を立てたその時、
初めて飼い主の女性は事の始終に気がついた。
「ああっ!食べちゃだめ!」と叫び、
力強くリードを引っぱり、行動を阻止した、
叱られた柴犬は仕方なくあきらめて、
両者はそそくさとその場を後にした。

後に残された私と頭を一噛みされて、うっすらと血の滲んだヤモリは
もう微動だにしなかった。

我々の間に吹き渡る五月の風は彼をこのまま
自然界に返してゆくのか?

しかし私はそこに奇跡を見た!
うつぶせのまま動かなかったヤモリは
震える前足で仰向けになり、大きく深呼吸を始めたのだ!
それはまるで映画のラストシーンのように思えた。

「笑わせるぜ、このザマか!
 俺ともあろう者がどうやら
 ヤキが回っちまったようだな!
 今度は向こうの世界か.....,
 ふっ!それも悪くねえ!
 なあ!そこのあんた!
 すまねえな!俺を見取ってくれるのか?
 いいかい?災いなんていつ降りかかるか、
 そんな事はわからんものだ。
 まあ、せいぜい気をつけ,,,,,ゴフッ!」

そして力尽きた彼は口元に小さく微笑みを残したまま
静かに目を閉じた。

わずか5分あまりの出来事だったがこれも一期一会、
植え込みの土にこっそり埋葬をした。
これで鳥の餌にもなるまい。

どうやら子供達も校門を出て帰って来たようだ。
「おかえり!いいかい?家に着くまで気をつけるんだよ!
 何があるかわからないのだからね!」

おわり

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by mannmani | 2012-05-02 06:54 | 心象風景 | Comments(0)

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