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みゆきちゃんとピーチ

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それは遠い昔、小学校の低学年の頃、
クラスにポニーテールで色の白い女の子がいた。
体が弱く学校を休みがちなその子は大きなお屋敷に住んでいて
家に「ピーチ」という名前の黒猫を飼っていた。
僕はその子が好きでピーチに会いに行くのを口実に
よく遊びに行った。
ちょっとわがままな上、登校する回数も少ないため、
友達がいなかったその子の母親は僕が遊びに行くと
とても喜んで迎えてくれた。

当時バウムクーヘンなど庶民には雲の上のお菓子で
とてもじゃないが口にする事はなかったが
そこで初めて食べたそれは天にも昇る思いだったのを覚えている。
もしかして僕がこの仕事を選んだのは多少なりとも
あの時の心象風景が起因しているのかもしれない。
彼女に会いに行く理由にされたピーチはそれを知っていたのか
僕にはなかなか懐いてくれなかった。
多分下心が満載なのを見破っていたのだろう。
しかし彼女は仕事であまり顔をあわせる事の少ない
父親や一ヶ月に2回しなければならない痛い注射の事を
とめどなく話してくれた。
僕はそんな彼女のちょっと上を向いた唇をいつも見ていた。

高学年になり僕と彼女はクラスが別になり、それでなくても
二人の事を囃し立てるクラスメイトが嫌でいつのまにか
疎遠になってしまった。
そして卒業…、

僕は近くの公立中学、彼女は名門の私立中学へ…
時々バス停で彼女を見かけたがお互い年頃の僕たちは、
そ知らぬ顔でその場を通り過ぎたっけ!
あの時、声をかけていたらどうだったのか!
また仲良くなれたのだろうか?
いや!身分のちがう僕なんか多分相手にしなかったと思う。

その後僕は地元をはなれてこの道に従事し始めて
彼女の事も淡い夢物語になっていった。
そんなある休みの日、実家へ行く途中の駅前で偶然
彼女の母親に出会った。
あの頃、お化粧をしてきれいだった母親もずいぶん年をとったが
相変わらずやさしい目をしていた。
思わず声をかけて呼び止めて話をしたが
残念ながら僕の事は覚えていなかったのである。
そして彼女の事を聞いて愕然とした、
彼女は25歳でこの世を去っていたのだ。
もっと生きたかったと思うと胸が締め付けられるようだ。
あの黒猫のピーチもかなり長生きしたが彼女の後を追うように
死んでしまったという…、それももう30年以上前の事…

今ではあの大きなお屋敷も取り壊され、マンションになり
あの頃の面影など微塵もなくなり、
すべては遠い記憶だけになってしまった。

あれから僕も年をとった。
でもあの頃の彼女の口元は今でもはっきりと覚えている。
みゆきちゃん!
君を思い出しながらお菓子を作ったよ!
どうだい?ピーチと一緒に空の上から見てくれるかい?

by mannmani | 2012-11-14 00:49 | ケーキ

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