ラーメン

中学生の頃、父親と言い争いになった事がある。
その夜、あまりの理不尽さに眠れず、ラジオの深夜放送を聴いていたら、
父親が来て「腹が減った!どうだ?母さんには内緒で
 ラーメンでも食いに行かないか?」と誘われた。
言葉には出さず、ただ頷いてコートを手に取り、階段を降りた。

外に出ると、深夜の町並みは冷えびえとして、
吐く息はすぐさま真っ白になる。
どこか遠くで犬の遠吠えが聞こえた。

何も話す事なく、黙って歩いて商店街をぬけると、
最終電車の終わった駅前にポツンと明かりが燈っている。
そこは屋台のラーメン屋で、バケツの水で器を洗っている爺さんは、
こっちを見るなり、小さく頭を下げた。

どうやら父親は何回か、利用しているらしい。
しばらくすると、もうもうと立つ湯気の向こうから熱い器を渡され、
胡椒を入れようとしたその時、父親は私の手をつかんだ。

「おい!食べる前から胡椒を入れるんじゃない!
 オヤジさんにもラーメンにも失礼だろ!」
はっとして爺さんに謝った。

すると「あはは!旦那!そんな事で叱っちゃダメでしょ!
 ラーメンなんてえもんは、自分の食いたい方法で食うのが一番だよ!
 ね!坊ちゃん?」そう言って爺さんは満面の微笑みを私に返した。

少し間を置き、父親は「ああ!そうだな…すまない!俺が悪かった!」
それだけ言うと、一口スープをすすってから、音を立てて食べ始めた。
そして全部食べ終わる頃に我々は、じっとりと額に汗をかいていた。

帰り道、前を歩く父親は、急に振り向いて、私にこう言った。
「どうだ?深夜のラーメンもオツなもんだろ?体が冷えないうちに帰るか!」
私は「うん!」とだけ答えて口元を緩めて
ふと、見上げた凍りつくような夜空は満月だった。

今になって、当時の事を改めて思い出してみると、
父親に謝られたのは後にも先にも
この時だけだったような気がする。
もしかすると、あの時、屋台で私に注意を促したのは、
家での言い争いをラーメンに託けて、謝るのが目的ではなかったのか?
普段、食事で注意などされた事はない。
もし、そうだとしたら…

父さん…、大正生まれの不器用さを、あなたの歳を越えた今なら、
微笑んで向かい容れる事ができるよ!
ごめんね!そしてありがとう!

※ 本日の昼食は、主流のトンコツや、みそラーメンではなく、
  昔ながらの懐かしい醤油ベースにしました。
  具に関しては、焼き豚とスープ以外、全て既成品ですが、
  いい意味で、身も心も昭和と父親を思い出させてくれたようです。


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by mannmani | 2016-05-03 15:32 | 心象風景 | Comments(0)

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