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妖精


ここは都内のマンションの一室、
「そろそろ暗くなるなあ........。」
そうつぶやくタカシは一ヶ月前事業に失敗して
莫大な借金を背負い、 挙句の果てに
妻は子供を連れて家を出て行った。
一人残ったテーブルの上には闇ルートから入手した
青酸カリがあるだけ。
そう、彼はもう覚悟を決めていたのだ。
すでにガス、水道、電気は止められているので
夜になってしまうと何もできなくなる。

ふいにむせ返るタカシは病魔にも冒されていた。
手にしたペットボトルを落ちてゆく夕日にかざして
「ふふふ、皮肉なもんだ、止められた水道水は
 放射能に汚染されて 体に良くないのに
このアルカリイオン水で飲むのが 青酸カリとはな!」
笑うその顔は他から見たらただ引きつっているだけである。
そしてビルの谷間にオレンジ色の光が沈む瞬間、
奇跡は起きた...........
暗闇に包み込まれた部屋の片隅に微かなあかりが見える
そしてそれはあたりをぼんやりと照らし、
すぐ後ろに人影があった。
その姿はまるでおとぎ話に出てくる妖精そのものだった。
「ヒイ!だ、誰だ!」
「ご安心下さい、無断で入り込んで申し訳ありません!
 ちょっとお話をお聞きしたいのです。」
狼狽するタカシに落ち着いた声でささやいた。
しかし少なくとも危害を加えるわけではないと
感じたタカシは
「.......まあいいや、どうせもうすぐ
 何もかも終わってしまうんだから!
 で、あんたは何者?」
半ば、やけ気味でペットボトルの水を飲み干して
聞いてみた。
「私は妖精です。」
「はあ?」
「妖精です」
「なんだ!死ぬ前に俺はもう頭がいかれちまったのか!」
「いいえ、そうではありません!これが証拠です。」
そう言うと妖精は宙を舞いはじめた。
「どうです?信じていただけましたか?」
「あ!ああ、どうやら本物らしいな、
 でもその妖精さんが俺に何の用があるの?」
妖精は言う。「はい!あなたが叶えたい願いを
3つ言って下さい」
「え!願い事?3つ?ホント?」
感激したタカシが答える。
「夢みたいな話だ。なんて言ったらいいのか…。
 そうだ!家族と財産と健康ですね!ありがとう、妖精さん。」
するとやさしく微笑んで妖精が答える。
「いいえ、こちらこそ! アンケートにご協力いただき
ありがとうございました。では失礼します!」 
そして妖精は闇の中に消えていった。
終わり
妖精_f0173549_05563203.jpg

by mannmani | 2016-05-15 06:01 | 短編小説

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