五月の風

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不景気風が吹き始めて、もう久しい。
自分が店をかまえた場所も10年目の頃、
向かいにあるスーパーはすでに5回代替わりをしていた。 ...

つまり2年に一回、代わっているわけだ。
まあ実際は3ヶ月でやめた店もあるが…

何件目のスーパーか、よく覚えてはいないが
桜の花びらも散り去って、暖かい風が吹く頃になると
名刺を持って挨拶に来た一人の若い店長を思い出す。


朝早くから店前の掃除やクレーム処理で忙しそうだった。
たまに奥さんと小さな子供を連れてうちにケーキを
食べにきてくれたっけ!

そんなある雨の日スーパーの従業員入り口に
小さな片目のチャトラネコが住み着いた。
多分親からはぐれたのだろう。


ダンボール箱にビニールをかけて雨よけを施し
パートさんも含め、スーパーに勤めるみんなで飼っていた
名前は誰が言い出したのか、その店名で呼ばれていた。

2ヶ月も過ぎた頃、しとしと雨のそぼふる朝、
いつものように店先に鉢植えの花を置こうと
外に出ると店長がスーパーの横にしゃがみこんでいた。

びしょびしょに濡れた背中で半そでシャツの
腕にかかえていたのは
すでに息絶えている血みどろのチャトラだった。
私に気がついた店長は急に呆れたような顔をして
「これだから野良はしょうがないっすね!
 つい今さっきでしょう!車に轢かれたみたいです。
 あとで保健所に連絡しますよ!
 実は本社からも注意されていたんです。
 衛生的にも問題ありますもんね!」と
冷ややかに言うとダンボールに死骸を置いて
そそくさと店の中に入っていった。

そしてその後、店長はある日突然解雇された。
サラ金からの借金が返せなくなり
取立て業者が職場のスーパーまで来たのだ。

お客さんにまで迷惑が降りかかるという理由で
本社は、いとも簡単に彼を切り捨ててしまった。
実は知り合いの保証人になっていたという.....。

最後の挨拶に来た彼と奥さんの言葉に 胸がつまった。
肩を落とし二人で帰る後姿が今でも 目に焼きついている。

あれから幾度目かの季節を繰り返し
あの頃の面影もない現在のスーパーには
朝から人待ち顔の店員が窓ガラスを磨いている。

神様、人って悲しいね!
やさしさ故に傷ついてまた傷ついて
傷が癒える頃さらに傷ついて
それでも生きていくものなの?

私は忘れないよ!忘れるもんか!
あの雨の朝、車に轢かれて死んだチャトラのために
好きだった魚肉ソーセージを段ボールいっぱいに
敷き詰めて手を合わせていた、そんなやさしい彼を!

何故か毎年、5月の風が吹き始める頃にそんな事を思い出す… 、



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by mannmani | 2017-05-01 00:31 | 心象風景 | Comments(0)

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